失敗を糧に

一度破壊されれば元には戻らない、それが生態系というもの。


 覆水盆に返らず、という言葉がある。もともとはこういう話である。呂尚(太公望)と高齢結婚した馬氏だったが毎日旦那が学問や占卜ばかりして働かないことに愛想をつかして離婚した。その後呂尚が周軍の宰相として活躍すると馬氏は再婚したいと申し出た。そのとき呂尚は盆に入っていた水をひっくり返し、これを元に戻せるのならば再婚してもいいと言った、というもの。人間なんて失敗続きの生き物であり、皆が自身のことを振り返ってもいろいろとあると思う。もちろん自分もそうである。とはいえ人生はやりすぎたこととやりそこなったことの積み重ね。何もしないで終わったよりマシだったと考えることにしている。
 環境破壊が覆水盆に返らずの典型的な例だろうか。土壌や川が有機水銀、カドミウムや銅などで汚染されると取り返しがつかない。絶滅しかけているトキの繁殖に力を注いでもなかなかうまくいかない。沖縄に誰も猫を持ってこなかったらヤンバルクイナは現状のような危機を迎えることはなかっただろう。ブラックバスなどもそうだし、例など数え切れないほどある。
 オーストラリア北部でサトウキビ農家はカブトムシの幼虫による食害に頭を悩ませていた。そのカブトムシの幼虫を駆除するために南米からケーントードという毒がえるを100匹あまり購入し、食害の問題はなくなった。しかし逆に繁殖力の極めて強いケーントードは2億を越すほどにまで増えてしまった。他の生態系に大きな影響を与え、結果として別の農業被害も出てくるなど現状は散々である。毎年のようにレンジャーを募って捕獲作戦を決行しており自身も参加したことがあるのだが、それでも個体数は増える一方。オーストラリア史上最大の環境政策の失敗とまで言われる始末である。
 しかしそのどうしようもないと思われたケーントードに中国が強い関心を示しているという。独特の毒腺が漢方薬の強心剤のもととなる有効成分であることが明らかになったことに加え、肉が食用で美味であるからだという。漢方への応用ならともかく食用にまでなるとは、まさに文字通りに失敗を糧にしたというところだろうか。
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